2022.03.11ブログ
光と影(担当:石神)
朝ドラの「カムカム エブリバディ」を観て、自分の人生にサニーサイドでいることの大切さを教えてくれた方を思い出しました。
朝ドラの前半部分では、ルイ・アームストロングが演奏した「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート(明るい表通りで)」という曲が様々な場面で流れました。この曲は1929年の秋にニューヨークの株式市場の大暴落に端を発した世界恐慌で、多くの人が経済的に立ち行かなくなった暗い時代の翌年に作られた曲です。
前回紹介したワッツ・ア・ワンダフル・ワールドという曲が生まれた時も、アメリカ国民の心にベトナム戦争の暗い影を落とした時期でした。この曲もルイ・アームストロングの歌と演奏でした。
この「カムカム エブリバディ」のドラマは、日本の戦中戦後の暗くて混沌とした時代を、この曲を取り上げながら脚本が書かれています。人々の心もすさみきった悲しくて暗い時代を「明るい表道り」を探して歩いていこうとする人々の姿を描こうとしているのかもしれないと感じました。
今はコロナウイルスの蔓延によって、「明るい表道り」を歩くことを忘れかけている人が増えているのかもしれません。その応援歌として、この曲を選び、脚本が書かれているとすれば、この作家の温かさにエールを送りたい気持ちになりました。
約40年前の話になりますが、まだコンサルタントとして駆け出しの頃に、大先輩の主催する2泊3日の公開セミナーの補助役として、グループ演習の進行とその演習の観察を担当することになりました。
明日が最終日となる二日目の夜、そのセミナーに参加している50代後半と思しきメンバーの方から、「明日は最終日ですから、良かったらこの辺りの居酒屋で一杯やりませんか?」と声をかけられました。しかし、セミナー中に特定の人と外で会食するのも避けたいと思っていたので、一度は丁寧にお断りをしましたが、どういう訳か、断り切れずに先輩に相談することになりました。
すると、先輩は「今回の参加者は30代から40代前半がメインで、企業からの申し込み出で来ている人ばかりだけど、この方は自費で参加されているし、年齢も一人だけ突出しているから、いろいろフラストレーションが溜まっているのかもしれないね。いいよ、飲み過ぎないようにね。」と快諾してくれました。
しかし、当の本人(私)には、自分はまだ30前の若造だし、この方は父親の年代とあまり変わらないので、どんな話になるのか、どんな話をすればいいのか、皆目見当がつかないのでためらう気持ちもありました。それに眼力も鋭く、強面でくせのありそうな雰囲気が漂っていましたから、部屋で休んでいた方がいいと内心は思っていました。
しかし、一方ではどんな話になるのか、どんな話が聞けるのか、といった好奇心もありました。
「石神さんは、どうして今の仕事をしようと思ったの?昔からこの仕事に興味があったの?石神さんはまだ若いよね~。」などなど、出だしは私の身辺調査をするように、質問攻めでした。でも、内心自分で答えられる範囲の話で助かったと感じていました。
頃合いを見計らって、「○○さんは、今回どういうきっかけでこのセミナーに参加されたんですか?」と投げかけてみました。
「すると、僕はね~、床屋を経営しているんですよ。今、15店舗あるかな。ずーと経営、経営でやって来たけど、この業界しか知らない人間にとっては、自己研鑽するにはいい機会なんですよ。この歳になると、誰も厳しいこと言ってくれる人っていなくなっちゃうんでね~。」
「はあ~、そんなもんなんですね~。ところで今回のセミナーで参考にして頂けることありました?」
「いや~、それはいろいろ感じるものはありますよ。まだ、明日一日ありますけどね。今回の参加者は僕より皆若いし、議論好きだしね。話を聞いていて面白いよ。」
「僕の店はね、大体中学校を卒業して入ってくる子が多いんですよ。まだ子供ですよ。もう親代わりだね。一人前になるには10年はかかるね。そんな子を見てるとね~、ここに参加しているメンバーの中には、管理者クラスの人もいるけど、部下育成だとか、部下指導だとういう話になっても、二十歳過ぎの、入社試験を受けてきた若者を見るのとではわけが違うからね。」
「確かにそうですね~。」
そんな話が続く中、〇〇さんのグループメンバーの一人一人を観察し、触れあった印象を事細かく話してくれました。
あまりにも鋭い観察眼に驚き、「〇〇さんはコンサルタントのような仕事をされたらどうですか?」と思わず言葉が出てしまいました。
「石神さん、僕はね~。どうしても人を探ってしまうんだよ。だからこの仕事は向いてないと思っている。」
「エッ、どうしてですか?」
「床屋の経営を紆余曲折でやって来るとね、いろいろ身についちゃうこともあってね。例えば、15歳から親元離れて生活するわけだから、うちの場合、店の近くのアパートを借りて住まわせ、変な事件に巻き込まれないように生活させるんだけど、大まかに言うと3点に気を配るんだね。」
「3点ですか?」
「年頃だから、しばらくすると夜遊びしたり、異性ができたり、また職場の人間関係で上手くいかない子たちも出てくるんですよ。だから、店を周りながら、この子は金の問題か?異性の問題か?人間関係か?ってね。常にこの3点で見るくせがいつの間にかついちゃったね。ひどい子になると、家財道具を揃えてあげた直後、いなくなる子もいるからねー。」
「ほんとに親代わりなんですね。」
「だから、今回のグループメンバーの顔を見ながら、いろいろ疑り深く観察しちゃうんだね。」
「でも、さっきからお話をうかがっていて、自分には足りないことばかりだな~と恥ずかしい気持ちで聞いているんですけど。」
「いや~、石神さんはいいんだよ。明るいところ見てるから、それは大事なことだよ。僕は暗いところから見てしまうからね。これがこの仕事に向いてない理由かな。」
こんなやり取りの後、居酒屋を出ましたが、この時の記憶は自分が仕事をしていく上で、たびたび思い出されるワンシーンとなりました。この世は光と影の関係によって、学ぶ機会が与えられているのでしょう。私たちはさまざまな体験を通して、最終的には自分のサニーサイドを見つけて歩むことが大切なのだと感じています。
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